しろくまはケモノ 01
同月15日22時37分
アレを見た後、直ぐにササコとは別れた。
浮気は許さない。
これが普通の彼氏彼女というやつだろう?
もはやギャグだ。僕は何に彼女をどうされたんだ?何にNTRれた?
既に混乱から覚めている頭でも、真剣に考えれば考えるほど笑うしかない。
「ごめんなさい許して」「もう絶対にしないから」彼女はそう言って懇願し、僕に土下座まで見せた。
そうだろう。僕らは婚約までしていた仲なのだ、いずれオシドリ夫婦なんて言われるのだろうと勝手な夢まで見ていた。
子供は何人欲しい、こんな家庭がいい。微笑ましく語り合い、愛を囁き合った結果がこれだ。
別れなんて誰にでもある。この結果だって結局は”よくある話”に埋もれる類に過ぎないのだろう。
NTRなんて流行りものにも程があるじゃないか。
ただ、唯一”よくある話”に変わらないだろう事実が「相手が人間じゃなかった」事だ。
多分それが、僕にとってだけであろう事もまた、戦慄の思いから離れられない。
そういう事もあるのだと、恐るべき絶対的な現実を見せ付けられ、僕はボーダーラインの外を垣間見たのだ。
彼女を許せなかったのではない。
浮気の相手が奴だった事が、許容出来ないのだ。
今でも思い出すたびに身震いし鳥肌が立つ。羞恥と屈辱、そして恐怖に嗚咽する。
”それが普通”で在る事に。
未だ理解出来ない。何なんだこれは。
何なんだこいつらは?!
何故みんな気付かない。
そして何故僕はその時まで気付かなかった?!
同月15日17時00分
奴らは見かけ上動物だ。
動物でありつつ人間と同様の生活レベル、そして対等の文化を謳歌している。人間と完全に共生している。
「人間として」ではない。
「動物でありつつ」だ。
彼らが、果たして本来の意味に準ずる「動物」であるかどうかは解らない。
未知の(僕だけか?)生命体、或いは異星人である可能性も笑えない。
人間と同じように(広義的には、もはやイコールで人間と位置づけられるだろうか?)話し、考え、悩み、喜び。遊んでは働き、働いては遊ぶ。ほぼ人間だ。種族の違いがある程度だろう。
動物園のバイト、なんてものもある。
斡旋してるのは勿論人間だ。仕事として動物を演じる動物を見に行く人間。
全体が1つのショーだとすれば、シュールな光景だとまだ安心出来る。これはフィクションだと。楽しめる余裕が生まれる。
しかしフィクションではない。これは現実なのだ。現実の生活の一旦なのだ。
何より恐ろしい事は、”これがリアルである事”を知ってるのだ。人は。
動物園とは、何だった・・・・・・?
動物園とは、何だ?
この例えようの無い不安感。言いようの無い違和感。恐怖。
兎に角、僕は気付けている人間だ。
これを記録し、これが何であるかを探る。
まだ見ぬ同胞に知らせ、そして気付いていない人達に投げかけるのだ。
幸い、僕にはルックスと資金(勿論貯蓄だが)があった。
例のカフェによく行く女性を何人か虜にし、時にはバイトとして潜入させ、カメラなどを取り付けた。
ササコはまだ、このカフェで働いている。
僕に詫び、反省したあの姿は偽りではなかった。本心から謝罪し、許しを請うていた。
それが解っているだけに信じられない思いがした。ショックだった。
いや、考えれば僕と終わったのだから、後はもう片方に気持ちが完全に傾くのはごく自然ではあるのだが。
しかし彼女のあの真摯な涙は、真剣な言葉は、ならば何故嘘でなかったのか。
ササコと店長であるシロクマとの関係は、周囲は誰も知らなかった。バイトや関係者の全て、常連客すら疑ってもいない程に内密な関係らしい。
僕に遠慮しているとは思えない。それとも向こうには妻子などがあるのだろうか。
僕は試してみる事にした。
続く⇒02