2ntブログ

攻殻機動隊SS 2つの誤算 01

内容:メスゴリラ少佐VSショタチンポです




素子は、ベッドに掛かるチャイの体重が消えている事に、ふと、気付いた。
厳密に言えば、たった今、消えつつある。
チャイに背を向けて寝ている素子には、彼の姿は視認出来ないが、チャイは、すぐ隣で寝ている筈である。
僅かに残るチャイの気配全てが消えていく最中を、現在進行形に背中で感じていた。
突然に、まるで寝ている姿のまま、空中に浮び上ったかのようにふわりと、消えたのだ。

(何だ……?)

チャイに対して背を向けたまま寝ている素子は、そんな視覚以外の情報に、不可思議とも言える軽い好奇心と興奮を覚えた。

チャイが起きてこのクィーンサイズのベッドを下りたにしては、体重移動の隙が無さ過ぎる。
チャイは、全身は当然、身体の一箇所も義体化していない生身の人間なのだ。しかもまだ子供とも呼べる少年で、勿論特殊な訓練を受けた、とも思えない。

(仕方ない、降参だ)

素子にしては早過ぎる投降が、この後に起こるイベントの選択肢の数を減らした、とは断言出来ないが、しかし少なくとも数あるアクションコマンドの内いくつかを、それもいつもの冷静な素子ならばにべもなく選ぶかも知れなかった可能性上位のものをその後で選ばせなかった功績は、無双無二の素子に対する相手として言えば、大きい。
素子は、視覚でチャイの状態を確認しようと、振り返った……。

いや、正確には『振り返ろうとした』

出来なかった。

寝返りを打とうとして幽体離脱をしてしまった。そんな友人の話を思い出す程に、素子のゴーストは、意思決定による身体の捻りと、しかし捻る事の出来ない身体のイメージとのギャップを叫んだ。何故か。

はっとする素子。
素子の左胸に、放物線を豊かに描くその丸みに沿って、チャイの左手が添えられている。
何故気付かなかったのか。
チャイは素子の背後に抱き付くような形で、張り付いている。ここまで移動して来たのだ。と言っても数十センチの距離でしかないが。それでも素子に対しては一瞬時間を無くすほどの戦慄を与えていた。
百戦錬磨の素子はそれでも、油断していたと言っていい。相手は子供なのだ。
だからこそ、体重移動が行われれば、こちらに移動したのではなく、ベッドを下りたのだと、数秒前まで決め付けていた。

そんな思い込みがあったからこそ、いざ隣の重みが消えた時、想定していた状態と相違すると言うだけで、もはや回答権をパスするほど簡単に油断したのだ。
そしてその気の緩みを噛み締めた刹那に、再度の油断。

素子は『なるほど、初めはベッドを下りるまでを思い込みで計算していたが、こちらに来たのであれば、あの体重移動で間違いない』と考えてしまっていた。


本来ならば。
本来、見ず知らずの他人と、万が一でもベッドを共にしなければいけない場合(そんな場合は無いに等しいが)素子は、異変を感じた次の瞬間には標的に銃弾を叩き込みマガジンを空にする筈である。
例え相手にある程度安心していたとしても少なくとも銃口を向け、フリーズを唱える筈である。
相手が全てにおいて劣る(紛う事なき人間の)子供である事が、素子にとって、最大の誤算となっていた。


「こらこら……やめとくんじゃなかったの?」
思わず苦笑と共にチャイをたしなめるセリフが出たが、それを発している途中から、徐々に、確実な身体の内部変化を素子は感じていた。
(遅効性の……毒?ドラッグ?これは……?!)
しかしそれを施したと思われる、可能性の最も高い相手は、チャイである。彼は素子の電脳にドラッグの類を仕込むどころか、アクセスすら出来ない筈だ。何故ならばチャイは電脳化していない、素子にそうだと気付かせないプランはこの少年には物理的に選択不可能なのである。
既に身体は、思うように動かないレベルまで制限されている。素子はこの異変が何によってもたらされているのか、その原因をさぐrtめn──

これだと思われる枝を発見し追尾しようと思考した所で、素子はブラックアウトした。



15分前──。

チャイは、どうしたら彼女が手を貸してくれるのか、考えていた。
出合った瞬間から今までそれを考え、彼女がシャワーを浴びている間中思いついた方法を一つ一つシミュレートしてみる。結論は、出た。
と言うより、初めから用意していたブツを仕込んで少々無理にでもお願いするしかない。
普通に頼み込んでもきっと無駄だ。彼女は多分、ロウと同じく信念を曲げない。

(まあ、許してくれるでしょ)

それが、その子供の楽観が、お願いを失敗した時にも成功した時にも、彼女に有効であるとチャイは無意識に感じ取っていたのだろうか。
結果から言えば、偶発的な事態も手伝い、全てチャイの思惑通りに事は運ぶのだから。



「これからどうするつもり?」

彼女が風呂場から出てくる。
見ると黒のミニショーツに、上は裸、赤いタオルを首から下げているだけである。

(こ、この人……)

チャイは彼女のあまりに無防備なその姿に、子供として扱われているサインを感じ取り、不満と安心を同時に覚えた。
しかし、これでいい。そうでなくとも初めから子供として、その様に演じてきた。

チャイは、自分の座るベッドの向かいにあるソファーの後ろをちらりと見る。
ここからでは陰になり視認出来ないが、そこには香炉が置いてある。
いざと言う時の為に大枚を叩いて購入しておいた、とっておきの媚薬が炊いてあるのだ。

丁度その香炉の真上に彼女が腰を下ろした。目線が合う。ドキリとした。
もしかしてバレたんじゃないだろうか……と言う不安と、現在、痛いくらい勃起しているコレを見られたんじゃないだろうかと言う不安の2つがチャイに圧し掛かる。
動悸が激しい。
スーツの上からでも誇らしげに谷間を見せていた彼女の胸が、下着を失った今でも驚くべき盛り上がりを見せている。
彼女が姿勢を直す度にタオルの隙間からその先端が見え隠れするのをチャイの目が追い、脚を組みなおす度に食い込んだショーツがチャイの雄としての本能をいちいち刺激した。
虎の子の媚薬は、相当に効くと評判で、近くの娼婦や飲み屋も大抵持っているし、彼女に対しての効能について、自信はあった。
仮に全身義体の彼女に効かなかったとしても、まだ次の手がある。
だが、まさか男の自分にもこれほど効果てきめんとは、事前に試さなかった自分の迂闊さを呪わずにはいられない状態ではあったが、何とか押さえ込む。

「好きにしなさい。止めはしないわ」

「そーするよ」

話は終わりとばかりに、チャイがベッドで横になると、彼女も同じベッドの隣に寝そべる。
限界まで膨らんだ相棒はびくびく頷き、盛れた我慢汁が糸を引いている。

(これを入れ込んだら、さすがに俺を子供だとは言わないだろうな)

媚薬の効能と彼女の裸体が、脳裏で複雑に絡み合い、チャイの思考はセックスの事だけで一杯になっていた。




2分前──。

素子はシャワーを終えるとチャイと話す為、TVの前のソファーに腰掛けた。
風呂場を出る瞬間までは、チャイの事は子供としか思っていなかった。無論、現在も、そのつもりである。
だが、目の前のチャイの股間は可哀想なほど盛り上がっており、そのある意味幻想を粉砕する少々の混乱とショックを素子は受け、内心苦笑したが、先ほどから検出している俗に言う『媚薬』の成分も手伝い、少しばかり、チャイに対し、けだもの注意報を脳内でサイレンした。
見て見ぬ振り、気付かぬ振りをし、話を切り上げ、ベッドに移動する。

媚薬など幻想に過ぎない。

特に女に効くものは、その殆どが出鱈目で、プラシーボの域を出ない。
例え、効果が見込めるとしても、それは女だけに効くものではなく、また違法に限りなく近いドラッグに他ならない。

少なくとも。

(悪いけど、ワタシには何の効果も無いのよチャイ……)

古今東西のウィルスやその手のドラッグ、薬品類は、全て、中和する材料を持ち得ている。未知のものですら、ある程度なら瞬時に解析し、ワクチンを構築する事も可能だ。

これは過言では無い。
しかしこの多大な才能とスキル、経験が、それらを持つ自身に大きな判断ミスを犯す起因となった。

この媚薬が、文字通り『ただの媚薬』に過ぎなかったからだ。

基本構造がヨヒンビンなどのアルカロイドに酷似しているこのドラッグは、作用的には興奮を誘発させると言ったものではなく、生じた興奮を減少させる因子を妨げる役割を持つ。
その上で、反面、冷静や沈着と言った静的な動態に強大に反応し、効果は倍増する。

もし普段の素子が摂取していれば、冷静な心情のまま、ドラッグは身体を抜けていくか中和される最期だろう。
しかし不運にも、素子が迂闊を自認しながらも油断を許していた少年、そのチャイが、自分の裸を見て勃起するほどに興奮していると言う事実が(実際には媚薬効果だが)素子の根底に興奮の芽を植えさせ、素子は気付かぬままに、それを育てていた。
媚薬自体も未知のものであった為、そして義体に対して、ましてや素子のような電脳のスペシャリストに対して、極めて微弱なドラッグであると判断された為、その解析は一旦保留にされた。
万が一効果が現れた場合に、或いは明日でも構わない。
そう結論させる程、チャイもこの媚薬も、素子にとって脆弱であったのだ。

素子は、自分でも何故かと言う疑問すら何故かと思ったが、前に男とセックスしたのは果たしていつだったかしら……と、そう考えていた。




続く⇒02 03 04 05
関連記事

0 Comments